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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1719号 判決

控訴人

メイカン産業株式会社

右代表者

佐藤良嶺

右訴訟代理人

細沼賢一

細沼早希子

被控訴人

大村あき

右訴訟代理人

竹川東

鈴木徹

右鈴木徹訴訟復代理人

市野澤邦夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求の原因1ないし15及び第一土地、第二土地の昭和五四年当時の価格が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

すると、訴外協会は、昭和五二年六月二八日訴外銀行に対してした弁済により、訴外会社に対し、弁済金一〇〇八万〇一二〇円及びこれに対する右弁済の日の翌日である同月二九日から年14.6パーセントの割合による約定遅延損害金の償還を求める求償債権を取得するとともに、右求償債権の確保のため本件債権及びこれを担保する第一土地及び第二土地に対する根抵当権を代位取得し、更に、被控訴人は、昭和五三年六月二日訴外協会の訴外会社に対する求償債権を弁済したことにより、訴外会社に対し、右弁済金一〇六〇万円及びこれに対する右弁済の日から民法所定の年五分の割合による利息金の償還を求める求償債権を取得する(民法四五九条、四四二条二項)とともに、右求償債権の確保のため、訴外協会の有した訴外会社に対する求償債権、本件債権及び各根抵当権を代位取得したものというべきである。

したがつて、被控訴人が代位行使し得る本件債権は、訴外協会の有した求償債権及び被控訴人の訴外会社に対して自ら取得した求償債権を限度とする。そして、(一) 被控訴人が自ら取得した求償債権の額は、右のように、弁済金一〇六〇万円及びこれに対する弁済の日である昭和五三年六月二日以降年五分の割合による利息金であるから、昭和五四年一一月二一日の配当期日現在一一三八万一二〇五円(ただし、被控訴人はその提出した債権計算書において利息金の起算日を弁済の日の翌日である昭和五三年六月三日とするから、同日から起算すると一一三七万九七五三円)であり、これに対し、(二) 訴外協会の有した求償債権の昭和五四年一一月二一日現在の額を算出すると一三六一万二一九三円、(三) 本件債権の同日現在の額を算出すると一三五〇万二四四〇円(元金九八三万四二五四円、昭和五二年六月二八日までの遅延損害金二四万五八六六円、右元金に対する同月二九日以降年14.5パーセントの遅延損害金三四二万二三二〇円の合計)となる。したがつて、被控訴人が代位して本件債権を行使し得るのは、右(一)の求償債権額限度とするのである。

二本件任意競売事件において、被控訴人は本件債権につき第二土地に対する根抵当権を行使するものであるが、本件債権については、連帯保証人として、被控訴人のほか、誠男、勝昭及び誠昭があり、被控訴人及び誠男は物上保証人をも兼ねているところから、被控訴人が代位して右根抵当権を行使し得る範囲いかんが争点となつている。

複数の連帯保証人ないし物上保証人があり、そのうちのある者が弁済した場合について、民法は、連帯保証人相互間では負担部分に応じての代位を認め(四六五条一項、四四二条一項)、物上保証人相互の間では担保に供した財産の価格に応じての代位を認める(五〇一条四号、五号但書)が、連帯保証人と物上保証人との間では頭数に応じての代位を認めている(五〇一条五号本文)。しかし、本件のように、連帯保証人であると同時に物上保証人を兼ねている者がある場合における、連帯保証人と連帯保証人兼物上保証人との相互の代位に関しては、解釈上疑義の存するところである。

控訴人は、このような場合、二重の資格を兼ねる者については、単に頭数によらず、資格の数だけ頭数があるものとして計算した頭数によつて代位し得る範囲を定めるべきであるとし、こうして、共同保証人、物上保証人のうち債権者に対してより重い負担を引き受けた者については、他の共同保証人、物上保証人に対する関係においてもより重い出捐をさせることが公平に合致すると主張する。

民法五〇一条各号の規定は、代位弁済による求償権の行使に関し、代位し得る者が複数存する場合におけるそれらの者の負担の公平を図り、これらの者相互間の権利行使を合理化するために、それらの者相互間における代位による権利の行使を調整しているのであるが、同条五号本文の規定が、保証人(連帯保証人を含む。以下同じ。)と物上保証人の間にあつては、「頭数ニ応ズルニ非ザレハ」代位しないものとしているのは、これらの者の間については、負担部分あるいは担保の目的物の価格のような相互の調整のための合理的な基準を定めることが困難であつて、むしろ単純に頭数に応ずることとするのが結局公平であり、かつ簡明で合理的であるからにほかならない。すなわち保証人は、いわゆる人的保証としてその総財産が責任を負担しているのであり、他方物上保証人は、特定の担保提供財産をもつて責任を負つているのであるが、この場合、保証人の総財産の価格や物上保証人の担保提供財産の数又は価格を調整の基準とするがごときは、徒らに煩雑であり、必ずしも合理的とはいえず、すべてこれらに関せず単に頭数に応じて代位するものとして扱うのがむしろ公平を図る上において簡明であるからである。保証人と物上保証人とを兼ねる者も、その者の総財産を一般担保に供するほか、その一部の特定財産を特別担保に供しているに過ぎず、物上保証人を兼ねているという一事をもつて他の単なる保証人よりも負担を重くし、より大きな出捐を強いる別異の取扱いをすべき合理的な理由は存しないというべきであり、控訴人主張のように、保証人であることと物上保証人であることを各別の頭数として計算するならば、その者に単なる保証人に倍する負担出捐を課することとなるが、それは公平の見地から合理的とは到底いい難いといわなければならない。従つて、保証人と保証人兼物上保証人との間にあつても、単純に頭数に応じて代位するものと解するのが民法五〇一条五号本文の規定の趣旨に合致するものというべきである。

三したがつて、本件においては、連帯保証人と物上保証人を兼ねている被控訴人と誠男は二名と数え、勝昭及び誠昭を加え、頭数を四名として、頭数に応じて被控訴人が第二土地に対する根抵当権を行使し得る範囲を定めるべきであり、結局、被控訴人は、その代位取得した本件債権一一三八万一二〇五円の四分の一に当たる二八四万五三〇一円につき右根抵当権を実行し得るものであるから、被控訴人の提出した債権計算書により被控訴人の取得した債権額を、右の範囲内である一一三七万九七五三円とし、その四分の一に当たる二八四万四九三八円を被控訴人に配当すべきものとして作成された本件配当表は正当であり、控訴人の本訴請求は理由がない。

四よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(香川保一 菊池信男 柴田保幸)

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